吉野 彰 博士はじめ3名の研究者が「リチウムイオン電池の開発」によってノーベル化学賞を受賞したのは記憶に新しいところです。これは、太陽光発電にとっても非常に画期的なことです。なぜ、画期的なのか?その理由をわかりやすく解説いたします。
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2019年ノーベル化学賞が「リチウムイオン電池の開発」に授与されました。ノーベル賞は、ダイナマイトの発明者アルフレッド・ノーベルの遺言により1901年から始まった、世界的に最も権威ある賞です。現在、6部門あるうちの1つがノーベル化学賞。なぜ、「リチウムイオン電池の開発」が選ばれたのか?その大きな理由は2つあると言われています。
今、この記事を、あなたはパソコンで読んでいらっしゃいますか?それとも、スマホで?タブレットで?もし、リチウムイオン電池がなければ、あなたがこの記事を読んでくださることもできなかったでしょう。ノートPC、スマホ、タブレット、携帯電話、デジカメ、携帯ゲーム機…etc. あらゆるモバイル機器にリチウムイオン電池は欠かせません。電気自動車(EV)も、リチウムイオン電池の出現なしに実用化はあり得ませんでした。
つまり、リチウムイオン電池は、私たちの生活を、そして、この世の中のインフラをガラリと変えてしまうほど、スゴイ開発だったのです。新型コロナの影響で世界的に在宅ワークが普及していますが、リチウムイオン電池がなかったら実現しなかったかもしれません。
リチウムイオン電池は、リチウムイオン二次電池とも言われ、Li-ion電池、LIB、LiBとも表記します。二次電池とは使い切りの一次電池ではなく、充電することで繰り返し使用できる化学電池(化学反応により電気を発生させるしくみの電池)のことで、蓄電池、充電池、あるいはバッテリーとも呼ばれます。
「リチウムイオン電池の開発」に携わった3名の研究者がノーベル化学賞を受賞していますが、その1人目がイギリス出身でアメリカ合衆国の科学者マイケル・スタンリー・ウィッティンガム博士。1970年、世界で初めてリチウムイオン電池の開発に成功しました。負極に金属リチウムを、正極に二硫化チタンを使い、この時のものは電圧2Vでした。
そして、2人目の受賞者が、アメリカ合衆国の固体物理学者ジョン・B・グッドイナフ博士。1980年に、今度はリチウムを正極側に使い、コバルト酸リチウムを用いて、電圧4Vに進化させました。ところが、リチウムイオン電池は残念ながら、市販化するにはいくつかの欠点がありました。リチウムは水に触れると爆発しやすく、万が一、人体に取り込まれると有害である…などが、その理由です。
この改善には何人もの研究者が取り組みましたが、ついに1991年、負極に石油コークス、正極にコバルト酸リチウムを用いて、安全性を高め、充電して繰り返し使える二次電池として市販化に成功したのが、吉野 彰 博士です。
リチウムイオン電池は、現在ではさらに改良化が進み、その特長は何と言っても「軽量」で「パワフル」なことです。
吉野 彰 博士プロフィール:旭化成株式会社 名誉フェロー/技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)理事長/九州大学 グリーンテクノロジー研究教育センター 訪問教授/名城大学 大学院理工学研究科 教授
ご存じのように、石油や石炭などの化石燃料(化石エネルギー)資源には限りがあります。また、二酸化炭素を発生するなど、地球温暖化の原因にもなっています。「化石燃料からの脱却」は、いわば人類にとって悲願とも言える命題でした。
リチウムイオン電池は、太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーにより、発電した電力を貯蔵しておくための代表的な二次電池です。再生可能エネルギーの実用化と進化に、大きく貢献していることは言うまでもありません。ノーベル賞のプレスリリースでも、この点が受賞理由として強調されました。
今や、太陽光発電の蓄電池として主流になっているリチウムイオン電池。特に、東日本大震災が発生した後の電力不足が、家庭だけでなく、さまざまな産業にも影響を及ぼしたことは記憶に新しいところです。災害時のバックアップ電源としても、蓄電池は注目を集め、需要が高まっています。
蓄電池は、もともと防災設備や無停電電源装置として通信機器などに利用されてきました。さらに、太陽光発電などの自然エネルギーを利用した発電システムと組み合わせることにより、出力の変動を緩和させる役割も果たします。
この特性を活かし、電力を消費する時間帯をずらして、電力需要ピーク時における電力消費を抑えるピークシフトや、災害や非常時をも想定したしたBCP(Business Continuity Plan=事業継続計画)に利用する企業も増えてきました。
こうした目的で、太陽光発電設備のある住宅、ビル、工場、商業施設などに蓄電池を併用設置する「定地用蓄電池」としても、リチウムイオン電池は活躍が期待されています。
ちょっと未来感のあるお話になりますが、災害時や電力供給が追いつかなくなる緊急負荷対応時のための「移動できる発電所」としても、リチウムイオン電池は注目されています。リチウムイオン電池を搭載したEV車がこれだけ急速に普及したことを思えば、そう遠くはない未来と考えていいでしょう。
また、VPPというバーチャルパワープラント=「仮想発電所」も、構想の実現化が進められています。ここ数年で、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電施設、太陽光発電設備のある住宅やオフィスは全国各地にできています。また、EV車やヒートポンプなども全国的に普及してきました。これら1つ1つをバーチャルな発電所として考え、それらをまとめて制御することで、あたかも一体化した大規模な発電所のように、電力の需要バランス調整に役立てようというのがVPPの構想です。
※VPPのイメージ:経済産業省 資源エネルギー庁 スペシャルコンテンツ「これからは発電所もバーチャルになる!?」より(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/vpp.html)
2016年4月、経済産業省発表の「エネルギー革新戦略」では、VPP技術の実証実験や事業化の推進が謳われ、補助金制度(2020年度までの5カ年計画)も設けられました。電力会社はもちろん、多種多様な業界業種の企業、大学、研究所、自治体などが実証実験に参加してきました。
近頃、よく目にする「IoT(モノのインターネット)」という、すべての機器をインターネットに接続することで通信利用によりサービスを提供する技術とも連携して、実現化は目の前と言われています。ここでも、蓄電池としてのリチウムイオン電池の存在は欠かせません。
軽量でパワフル、安全性が高められたリチウムイオン電池は、スペースシャトルや宇宙ステーションにも活用されています。宇宙ステーションでも、水や空気を供給して宇宙飛行士の生命を維持したり、実験や研究を行なったりするには、電力が必要です。その電力は、太陽光発電によって生み出されます。
そして、夜間も安定して電力を供給するため、蓄電池の存在は不可欠です。その蓄電池として、小型軽量化された高性能な宇宙用リチウムイオン電池が、日本でも次々と開発されています。
さらに、宇宙空間で太陽光発電を行ない、その電力を地球上に送る「宇宙太陽光発電」という研究も進められています。地球規模から、宇宙規模へ。これからも、リチウムイオン電池と太陽光発電の進化からは目が離せません。