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2020年9月10日 太陽光発電の電力は非常時にこそパワーを発揮する!?

2020年、関東甲信地方の梅雨は8月まで続きました。台風シーズンを迎え、9月になっても蒸し暑い日々が続いています。

この状況で、もし災害による影響で電力供給がストップしたら…。

太陽光発電には、そんな非常時・緊急時に備える役目もあるのです。

 

目次:
突然のブラックアウト!その時、太陽光発電は…
17分間で火力発電所などが次々停止
無事だった近隣のソーラーパーク
停電時に備えるカギは「自立発電」と「蓄電池」
ブラックアウト時に再エネを有効活用するには
台風時に活躍した野立ての太陽光発電
太陽光発電は停電時の救世主となるか

 

 

突然のブラックアウト!その時、太陽光発電は…

 

日本は他国に比べて停電に強いと言われています。もともと台風や地震が多く、長年かけて災害に対する備えを行ってきた成果とも言えるでしょう。けれど、2011年3月11日に発生した東日本大震災では、福島第一原子力発電所をはじめとした発電施設が被害や事故に見舞われ、広範囲にわたる停電や電力危機をもたらしたことは記憶に新しいところです。
また、2018年9月6日未明に発生した最大震度7の北海道胆振東部地震により、日本初の大規模停電(ブラックアウト)が北海道全域を暗闇に包みました。余震が続く中、地震発生翌日の明け方近くまで180万戸以上で停電が続きました。

 

17分間で火力発電所などが次々停止

北海道胆振東部地震によるブラックアウトについては、その後、国による第三者委員会(検証委員会)が設置され、データに基づき、専門家による検証がなされました。報告によると、以下のような経緯でブラックアウトが発生したとのことです。
3:07:59 地震発生

震源に近い「苫東厚真火力発電所」(2号機・4号機)の機器の一部が損壊し停止

風力発電所が出力低下により停止

水力発電所が送電線切断のため停止

「苫東厚真火力発電所」(1号機)も停止

3:25 ブラックアウトの発生(北海道全域が停電)

 

復旧作業が非常にスピーディに行われたおかげで、地震発生直後に停電していた最大約295万戸のうち約99%が、約2日で停電から復旧することができました。日本は復旧作業の迅速さにおいても、世界から常に注目されています。とはいえ、災害時・非常時の電力需給に全く不安はないとは言い切れません。まだまだいくつもの課題が残されているのも事実です。
                                                    各災害時における停電戸数の推移

※経済産業省 資源エネルギー庁 なっとく!再生可能エネルギー スペシャルコンテンツ『日本初の“ブラックアウト”、その時一体何が起きたのか』(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/blackout.html)より

 

無事だった近隣のソーラーパーク

苫東厚真発電所に隣接する安平町には、北海道で最大規模のソーラーパークがあり、こちらのほうはまったく無事だったとのことです。地面に多少の亀裂があったとは言え、設備にはいたって問題がなく、稼働し続けていました。

そもそも太陽光発電は土砂崩れに遭ってしまうならともかく、構造上、地震の揺れに対しては強いという特徴があります。また、エリア内に設備が分散しているため、たとえ一部の設備が損壊し機能しなくなっても、すべての電力供給が停止してしまうことはありません。

ただし、非常時・緊急時の電力供給という点において、太陽光発電にも課題は残されています。電力会社との系統連系を行っているため、周囲の系統が停電すると、太陽光発電所も送電をストップすることになってしまうのです。

この課題をクリアして、非常時・緊急時をも見据えた、太陽光発電による「電力の地産地消」を目指そうという動きも高まっています。

 

 

停電時に備えるカギは「自立発電」と「蓄電池」

北海道胆振東部地震の後、太陽光発電協会(JPEA)が、「住宅用太陽光発電システムの自立運転」に関するアンケート調査を実施しました。それによると、蓄電機能を併設しないシステムユーザーの85.0%が、ブラックアウト時に自立運転を利用したと回答したそうです。また、蓄電機能を併設したシステムのユーザーからは、「約2日の停電の間、問題なく生活できた」などの声が得られました。

ところが、北海道庁が市町村や事業者を対象に、ブラックアウト時、再生可能エネルギー(新エネルギー)を活用できたかどうかを調査したところ、活用できた市町村は34.5%、事業者は23.5%に過ぎなかったそうです。なぜでしょう?

 

ブラックアウト時に再エネを有効活用するには

北海道の調査によると、回答が得られた市町村115、事業者331のうち、再エネ設備を導入済みは市町村67件(58.8%)、事業者106件(32.6%)。そのうち、導入済みの再エネ設備の種類は、以下の順でした。

 

また、再エネ施設に専用の蓄電池を備えた市町村は23.0%、事業者は3.4%でした。ブラックアウト時に電力源として再エネを有効活用できなかった理由は、市町村「蓄電設備がない」「規模が小さい」「設備の起動電力を確保できなかった」、事業者「系統連系しているため(全量売電)」など。

住宅用太陽光発電のユーザーが「自立発電」や「蓄電池」によってブラックアウトを凌いだことを考え比べてみると、非常時・緊急時の電力源として太陽光発電を有効活用する決め手が見えてきます。

 

台風時に活躍した野立ての太陽光発電

非常時の太陽光発電への注目が最初に高まったのは、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の時です。ガソリンスタンドにはガソリン備蓄があるのに、停電のため供給できないという事態も起きました。後に、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成によって、地域の主なガソリンスタンド屋根部に自立運転機能付きの小型太陽光発電システムが配備されました。

地震だけではありません。2019年9月5日に発生した観測史上最大級の台風15号は、9月9日に関東地方へ上陸し、関東の広域で停電が発生しました。特に千葉県内では一時期最大64万戸が停電し、鉄塔や電柱が損壊したため、一部地域では1ヵ月以上に及ぶ長期的な停電という異例事態となりました。

                                   これまでの台風被害における停電戸数の推移

※経済産業省 資源エネルギー庁 なっとく!再生可能エネルギー スペシャルコンテンツ『「台風」と「電力」〜長期停電から考える電力のレジリエンス』(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/typhoon.html)より

 

この時も、電力復旧後、JPEAが「太陽光発電の自立運転機能の活用」についてのアンケート調査を実施。蓄電池を併設しない住宅用太陽光発電システムのユーザーも約80%が自立運転機能を利用し、「停電時に有効活用できた」との回答を得ています。

また、50kW未満の野立ての太陽光発電が、地域の非常用電源として機能した例も注目を集めました。オーナーは非常時を想定し「自立運転用コンセント」を備えていたため、太陽光発電所の前にのぼり旗を立て、SNSで情報を拡散し、地域住民に使用を呼び掛けたそうです。

 

 

太陽光発電は停電時の救世主となるか

こうした災害時の太陽光発電による電力確保の事例を受け、資源エネルギー庁やJPEA、各太陽光発電システムメーカーも、「自立発電」の啓蒙や普及を推し進めています。災害時のメガソーラー活用システムを構築する自治体も増え、「蓄電池システム」を併設したメガソーラーも次々と誕生しています。

また、弊社コラム「太陽光発電も進化!?ノーベル化学賞受賞のリチウムイオン電池」でもご紹介したように、VPP(バーチャルパワープラント/仮想発電所)の構想が実現化すれば、太陽光発電所、事業所や家庭の太陽光発電システム及び蓄電池、充電ステーションなどをIoT(モノのインターネット)で結び、停電時に備えることができます。災害時はもちろん、平常時の電力の需給調整にも期待が寄せられています。