コラムColumn

2021年5月19日 スマートグリッドとマイクログリッド。太陽光発電の今後を握るカギは。

近頃よく目にする「スマートグリッド」と「マイクログリッド」は同じ?結論から言うと、違います。スマートグリッドは「賢い送配電系統」、マイクログリッドは「小規模電力系統」。似ているようで違う2つについて、太陽光発電をはじめとした再エネの役割、仕組み、メリット・デメリット、日本の事例や課題について解説します。

目次:

スマートグリッドとマイクログリッドの違い

― スマートグリッドの仕組みとメリット

― マイクログリッドの仕組みとメリット

太陽光発電や再生可能エネルギーの今後に重要なのは

― スマートグリッドの事例と日本の課題

― マイクログリッドの事例と日本の課題

 

スマートグリッドとマイクログリッドの違い

グリッド(grid)とは、英語で「格子(状のもの)」「方眼(状のもの)」「送電網」「配管網」などを表す単語です。つまり、電力用語としては、「送配電網」「送配電系統」のこと。英語では、 power grid、electrical gridとも言います。
スマートグリッド(smart grid)とは、送配電系統に通信ネットワークや情報システムを統合させた、「次世代送配電系統」のこと。スマートには「賢い」という意味がある通り、電気の供給側・需要側の双方から電力量や流れをバランスよく制御でき、最適化できるという「賢い」送配電網を表します。
マイクログリッド(micro grid/microgrids)とは、直訳すると「微細格子」「微細網」となりますが、一定の地域における分散型電源から供給する「小規模電力系統」のことを指します。分散型電源は太陽光・風力・水力・バイオマス発電、蓄電池、EV(Electric Vehicle/電気自動車)、発電機などで構成されます。
では、それぞれの仕組みやメリット、デメリットについてもご説明しましょう。

 

スマートグリッドの仕組みとメリット

スマートグリッドへの関心は、年々、世界的に高まっています。CO2(二酸化炭素)を発生しにくく、環境にやさしく、枯渇しにくい再生可能エネルギーの普及は、もはや地球的命題です。けれど、太陽光発電をはじめとした再エネのデメリットは、需要と供給のバランスが取りにくい点にありました。

この問題点を解決する手段として、注目されるのがスマートグリッドです。ICT(Information and Communication Technology/情報通信技術)によって電力ネットワークの最適制御を行うスマートグリッドは、今や私たちの生活に欠かせない社会インフラとなりつつあります。

そして、スマートグリッドに欠かせないのが、「スマートメーター」です。日本でも、資源エネルギー庁が中心となって、2010年5月より「スマートメーター制度検討会」を開催し、2011年2月に報告書が取りまとめられました。2024年度には全世帯へのスマートメーター設置を目指し、従来のアナログ電力メーターとの切り替えが行われています。

※家庭用スマートメーターのイメージイラストです。

スマートメーターとは、通信機能を備えた電力メーターのことです。従来のアナログ方式電力メーターは、電力会社の担当員が各家庭などを訪問し、電力使用量の計測を行っていました。これに対してスマートメーターは、電力会社のサーバーにネットワークを介して電力使用量が記録されますので、計測のために訪問する必要がありません。

※経済産業省 資源エネルギー庁『スマートメーターで変わる使用量の確認方法』より

特に太陽光発電で売電を行っている投資家・事業者にとっては、発電量や売電量が見える化される必須アイテムです。それだけではありません。通信回線を利用して自動的に電力使用量を送信するスマートメーターは、そこから得られるデータを活用して新しいビジネスを創出することにも役立てられています。

例えば、電力使用状況を基にした高齢者の見守り、空き家の把握、再配達業務の効率化など、多様な活用ニーズがあると考えられています。スマートメーターからの情報は、需要家や電力会社、小売電気事業者だけでなく、自治体や様々な産業分野の他の事業者にとってもメリットを生み出しているのです。

活用ニーズ(例)

※経済産業省 資源エネルギー庁 スペシャルコンテンツ『2018年、電力分野のデジタル化はどこまで進んでいる?』より

マイクログリッドの仕組みとメリット

東日本大震災による福島第一原子力発電所の重大事故は、未だ地域に影響を及ぼし続けています。大規模発電所は用地が限られ、また長距離の送電網を必要とするため、こうした自然災害の影響を受けやすいというデメリットがあります。環境破壊の問題も避けられません。万一、大事故となれば広範囲に及ぶブラックアウトも起こり得ます。

※ブラックアウトについては、2020年9月10日のコラム『太陽光発電の電力は非常時にこそパワーを発揮する!?』をご覧ください。

そこで、一定の地域に小規模な発電施設を配置することで、分散型電源の利用により安定的に電力を供給する仕組みとして生まれたのが「マイクログリッド」です。家庭やオフィスの近くにあるため、大規模発電所のように長距離送電網を必要としないので電力ロスが少ないというメリットがあります。環境負荷も削減できます。

そもそも、マイクログリッドは、1999年、米国エネルギー省傘下のローレンスバークレー国立研究所を中心としたCERTS(The Consortium for Electric Reliability Technology Solutions/電力供給信頼性対策連合)によって提唱されました。CERTSは大学、電力会社、メーカー、公的研究機関等が参加する連合で、マイクログリッドを下記のように定義しています。

1. 複数の小さな分散型電源と電力貯蔵装置、電力負荷がネットワークを形成する一つの集合体
2. 集合体は系統からの独立運用も可能であるが、系統や他の「マイクログリッド」と適切に連系することも可能
3. 需要家のニーズに基づき、設計・設置・制御される

日本では、「電力の地産地消」という表現と共に語られることも多いマイクログリッド。太陽光発電をはじめとした地域再エネと、熱源から電力と熱を生産し供給するシステム「コージェネレーション(cogeneration/co-generation)」とを組み合わせ、経済的な地域エネルギーシステムとしての構築を重視しています。平時は再エネ電源を有効活用しつつ、災害等による大規模停電時には周辺系統から独立したグリッドで自立的に電力供給可能な、新たなエネルギーシステムのモデル構築を目指しています。

※経済産業省 資源エネルギー庁 2019年12月6日 『地域の系統線を活用した エネルギー面的利用システム (地域マイクログリッド)について』より

また、マイクログリッドの推進を図るため、資源エネルギー庁は支援事業も行っています。「地域マイクログリッド構築支援事業」は、地域マイクログリッドを構築しようとする民間事業者等(地方公共団体との共同申請)に対し、構築に必要な費用の一部を支援。「マスタープラン作成事業」は、地域マイクログリッド構築に向けた導入可能性調査を含む事業計画を作成しようとする民間事業者等(地方公共団体と の共同申請)に対し、プラン作成に必要な費用の一部を支援する事業です。

 

太陽光発電や再生可能エネルギーの今後に重要なのは

世界の国々では、アメリカ、ヨーロッパはもちろん、韓国、中国などのアジア諸国も含め、次世代電力送電網「スマートグリッド」を構築するための技術開発が加速しています。また、「マイクログリッド」についても、欧米、オーストラリア、そして無電化地域を抱えたアジアやアフリカでも電力供給の手法として、様々なプロジェクトが進んでいます。日本ではどうなのでしょう。最近の事例をご紹介します。

 

スマートグリッドの事例と日本の課題

スマートグリッドのステージは、「スマートハウス」「スマートシティ」「スマートコミュニティ」などとなります。

「スマートハウス」は、太陽光発電、蓄電池、スマートメーターを設置し、スマートグリッド技術を活用して家電や住宅機器などを最適に制御できるようにした戸建住宅や集合住宅。学校や教育施設の場合は「スマートキャンパス」と呼びます。「スマートシティ」は、太陽光発電などの再エネによる分散型電源、EV車の充電システムなどを整備した次世代街区・都市。「スマートコミュニティ」は、これらを統合した地域のあるべき姿です。

各地で様々なプロジェクトが実現化されているとは言え、今はまだ実証段階。日本は技術力では世界の優位にあり、特に発電、送配電網全体の制御技術には強みがあります。これらの技術力を活かしながら、スマートグリッドでどう新たなビジネスを生み出していけるのか、消費者のライフスタイルのニーズを実現していけるかが今後の課題と言えるでしょう。

 

マイクログリッドの事例と日本の課題

2020年9月15日、宮古島市来間島(くりまじま)における地域マイクログリッド構築事業が始動すると発表されました。経済産業省の支援事業を受け、太陽光発電の第三者所有モデルとエネルギーマネジメントシステムを活用。エネルギーの地産地消とレジリエンス向上を目指すプロジェクトです。

来間島は約100世帯が暮らす、沖縄本島から南西約300kmの宮古島と来間大橋でつながる離島で、全住宅に太陽光発電設備、蓄電池、エコキュートなどを無償設置する計画です。平常時は宮古島本島につながる電力系統と来間島に構築したグリッド側とのエネルギーマネジメントを行い、災害などで大規模停電が発生した場合は宮古島系統からマイクログリッドを切り離し、電力自給を目指します。

また、これに先駆け、9月9日には、神奈川県小田原市で太陽光発電などの再エネや蓄電池、EV自動車、調整力ユニットなどを活用した地域マイクログリッドの構築が発表されています。調整力ユニットおよび地域エネルギーマネジメント(REM)を導入し、発電・需要・余剰を一元的に運用。非常時には系統電源から切り離し、一部の太陽光発電と蓄電池、EVを活用したマイクログリッドを運営します。

マイクログリッドの使命は、何と言っても「レジリエンス(resilience)」。もともとの意味は、跳ね返り、弾力、回復力、復元力などで、困難や逆境にあっても折れることなく、立ち直り、状況に合わせて活路を拓くことです。転じて、電力エネルギーの世界では「災害による停電などの非常事態でも自力で電力供給できること」を意味します。

地震、台風など、災害の多い日本。マイクログリッドの課題は、そのまま日本の課題と言えるでしょう。そして、そのシステムと仕組みの重要な役割を担っているのが、太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーなのです。

 

イーゲートのセミナー・個別商談会については、こちらでご確認ください。